2012年7月26日木曜日

1冊でわかる 数学

ティモシー・ガウアーズ (2004). 『1冊でわかる 数学』(青木薫訳),岩波書店.

フィールズ賞を受賞した数学者による著書です.タイトルからして数学の軽い啓蒙書のように思えますが,内容は結構興味深いものです.というのも,数学そして数学的な活動がいかなるものか,ウィトゲンシュタイン的な立場から,様々な具体例を交えて示しています.私は論理実証主義とかウィトゲンシュタインとかをあまりよく知らないのですが,本書では,「数学的対象は,それが何を為すかによって規定される」という立場を基本に,色々な事例が紹介され,そうした立場にある程度納得がいくようになっています.

前回紹介したイタリア人の本もそうでしたが,ちょっとした興味・関心を引くための啓蒙書というよりも,数学の本性を問う数理哲学チックな本です.本書の最後の方では,数学教育についても少し語っており,そこは???なところもありますが,目を通してみる価値はある本だと思いました.

2012年6月4日月曜日

数はどこから来たのか:数学の対象の本性に関する仮説

Giusti, E. (1999). 『数はどこから来たのか:数学の対象の本性に関する仮説』(斎藤憲訳),共立出版.

イタリア語の翻訳本ですが,非常に読みやすいとともに,その内容が大変よかったです.数学史の本というよりも,数学の本性や発生に焦点を当てた,科学哲学,数学のエピステモロジーの本という感じです.

本書では,数学的対象が創り上げられる過程において,「探求の道具」「問題への解答」「研究の対象」といった段階が存在することが,数や幾何,群などを事例に非常にわかりやすく述べられています.こうしたことは,数学教授学研究では80年頃から数学的な知識の性格として結構考慮に入れられているものです.例えば, Douady の Tool/object の理論は,まさに「探求の道具」と「研究の対象」の側面を考慮に入れたものですし,Brousseau の教授学的状況理論でも,situation of action では,「探求の道具」として新たな数学的な知識が発生し,その後の situations ではそれが検討の対象になります.しかし,こうしたことを数学史や科学哲学等の文献,特に和書では読んだことがありませんでした(おそらくあるのだと思いますが).そういった意味で非常にお薦めです.教授学的状況理論等を理解するためにも助けになると思います.