2008年12月6日土曜日

Heffernan, N. T. et al. (2008)

Heffernan, N. T., Koedinger, K. R., & Razzaq, L. (2008). Expanding the Model-Tracing Architecture: A 3rd Generation Intelligent Tutor for Algebra Symbolization. International Journal of Artificial Intelligence in Education, 18 (2), 153-178.

参考:www.AlgebraTutor.org

Ms Lindquist という intelligent tutor の設計に関する論文です.このAIは代数の文章問題において,子どもの回答に応じて様々なフィードバックを与えることができます.この論文を読んで思ったことは,指導部分の貧弱さです.一般にこういった AI において,二つの大きな課題があります.一つは診断部分で,子どもの知識状態をいかにモデル化するかが課題になります.もう一つは指導部分で,子どもの知識状態に応じていかなるフィードバックをいかに与えるかです.このAIでは,実際の個人教師をモデル化して,後者の指導部分を設計したそうですが,フィードバックの質があまりよくありませんでした.論文で与えられた指導事例のほとんどにトパーズ効果が見られました(Ms Lindquist よりも Mr Topaze の命名のほうがいいかも/笑).

しかしこの論文を批判するためにここに書き込んだわけではありません(しかも最近ずっと更新がなかったのに).それなりに考えさせてくれ,面白いと思ったからです.考えさせてくれたことは,フィードバックの質と数学教育学の研究の必要性についてです.このAIのフィードバックを見て,トパーズ効果などを知っているひと(あまりいないでしょうけど)や数学教育学の研究者はすぐに問題がわかるでしょう.しかしそうでなければ,子どもに応じたフィードバックであってもあまり適切でないことに気づくのは容易ではないのだなぁと再認識しました.すると,数学教育学側としては,フィードバックの質についてまとめた論文や著書を書く必要があるのかもしれません.