2019年12月12日木曜日

schema(スキーマ)と scheme(スキーム)の違いについて (part 2)

随分前のことですが,ピアジェの理論について議論する際,schema (シェマ、スキーマ)と scheme (シェーム、スキーム)の二つの言葉が見られるということ,仏語だと schéma は図式を意味する日常語で理論の言葉ではないので奇妙だということを書きました.さらに,英語圏の schema は独自の発展を遂げ,何か特殊な意味をもつようになったのでは,などとも書きました.
https://mathedmemo.blogspot.com/2015/03/schema-scheme.html

最近,ある文献を読んでいたら英語の schema が出てきて,そこでピアジェの翻訳本が参考文献にあがっていました.その翻訳本を見たところ,上の問題はそもそもは仏語の schème を英語で schema と訳したことに起因する混乱だったのだろうとわかってきました(混乱していたのは私だけかもしれませんが・・・).元の文献は,ピアジェの La naissance de l'intelligence chez l'enfant (Piaget, 1936; 邦訳タイトル『知能の誕生』)というもので,文献全体を通して schème について議論しています.schème 理論の中心的な文献のようです.Margaret Cook という人がこの本を訳しており,その英語版 (Piaget, 1952) では,仏語の schème (シェーム)が英語で schema (スキーマ)となっているのです.さらに,仏語の複数形の schèmes (発音は単数形と同じ)が schemata (スキマータ)と訳されています.こうしたところから英語圏では schema がピアジェの言葉として広く使われ,日本にも輸入されたのでしょう.日本語版(ピアジェ, 1978)は見ていないのでわかりませんが(今度機会があったら見ておきます),その際,発音はフランス語風に「シェマ」などとしたため,フランスの日常語である schéma (シェマ)と同様の発音になり,さらに混乱を招くことになったのではないかと思われます.

数学教育においては,schema と scheme は異なり前者がより図的なものなどといった解釈を加えて解説している文献があったりします.これも仏語の schème を英語で schema と翻訳したことによって生じた混乱なのでしょう.まあ最近はピアジェの schème に触れる論文がほとんどないので,あまりそうした混乱は見られませんが,適切な訳語をつけるというのは難しいですね.

自戒の意味を込めた結論でした(笑).

なお,補足情報ですが,ピアジェのオリジナル文献の多くはジャン・ピアジェ財団のホームページから閲覧することができます.是非,ご覧ください.
http://www.fondationjeanpiaget.ch/fjp/site/accueil/index.php

参考文献
Piaget, J. (1936). La naissance de l'intelligence chez l'enfant. Neuchâtel, Paris: Delachaux et Niestlé.

Piaget, J. (1952). The Origins of Intelligence in Children (M. Cook, Trans.). New York: International Universities Press.

J. ピアジェ(1978). 『知能の誕生』(谷村覚, 浜田寿美男訳),ミネルヴァ書房.

------ 追記 ------

この記事には Part 3 があります。こちらもご覧下さい。

https://mathedmemo.blogspot.com/2021/09/or-part-3.html