Gascon, J. (2003) From the Cognitive Program to the Epistemological Program in didactics of mathematics. Two incommensurable scientific research programs? For the Learning of Mathematics, 23(2), 44–55.
この論文は,昔に見つけて,読もうと思いながらも,簡単に眺めただけで終わっていたものです.内容は,数学教育学研究における近年のアプローチを分析したものです.Gascon は,アプローチというよりもラカトシュの研究プログラムという語を用いています.タイトルにある,「共約不可能」の語もラカトシュから援用したものです.
まず,数学教育学の研究が,大きく分けて二つの研究プログラムによってなされているとします.認知論的プログラムと認識論的プログラムです.前者は,英米をはじめとしてこれまでの多くの数学教育学研究が進められてきた研究プログラムで,後者は70年代以降のフランス数学教授学のアプローチを指しています.そして,それぞれのプログラムの前提条件やプログラムによって導かれる問い・問題などを比較しています.
ここで問い・問題というのは,Balacheff (1990, JRME) で強調している problematique です.つまり,数学教育の実践から感覚的に導かれた問いや問題(「証明をいかにうまく教えるか?」など)ではなく,研究の大前提となる理論や枠組みから導かれる問いや問題のことです.Gascon は,それぞれの研究プログラムから problematique を導き出し,いかに異なるか示しています.これから,研究プログラムが非常に異なることがわかります.最も異なる点は,ハードコアの部分で,私が常に触れている点ですが,数学知識を明らかとしているか,数学知識自体を illusion of transparency として問い直しているか,という点です.
論文では,認知論的プログラムを三つのパースペクティブに分け,それぞれの問い・問題を導いていますが,勉強になります(私にはちょっと難しかったですが).特に,自分の研究のアイデンティティーを知り,説明できるようにするためには,重要だと思います.
追記:「認知論的プログラム」と「認識論的プログラム」という呼び方は,なかなかいいです.以前の「知識志向型研究」と同様に使わせてもらいます.
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