2008年5月9日金曜日

linear function

最近,アメリカの高校で扱われる一次関数について調べることがありました.色々な意味で面白かったので,今回はその一つを紹介します.

英語の Linear function という言葉ですが,よく聞く言葉だと思います.日本の学校数学では,「一次関数」に相当するのだと思います.しかし,今日思ったのですが,この linear function という言葉あまりよくないです.

アメリカの高校の教科書などをみると,linear function は, f(x) = ax + b と表現できる関数を指しているようです.ここで私が注目したのは linear という語です.一般に,linear という語は,わが国では,高校で勉強する一次変換や大学初年度の線形写像,線形変換などの「一次」や「線形」に相当すると思います.この「線形」という言葉ですが,線形代数では,写像に対して,f(x + y) = f(x) + f(y) と f(ax) = a f(x) が成り立つ場合を指します.この定義に倣うと,f(x) = ax なら線形写像になりますが,上の米国の linear function (f(x) = ax + b) は線形写像ではありません.つまり,米国の学校数学では,線形写像にならないものを「線形関数 (linear function)」と呼んでいるのです.これにはちょっと驚きました.

もちろん,米国の教科書は関数の input と output の組を座標上で直線として表現できるので,linear と呼んでいるのだと思います.でもこの場合は,関数(もしくは写像)が線形ではなくて,組が座標上で線形に表現できているだけです.すると,もし米国の大学で普通に線形写像や線形変換を習うなら(実際そうですが),高校までに習う linear という言葉と,大学で用いられる linear の言葉の意味が異なってしまいます.もちろん,それで OK というのであれば,それまでのお話ですが.

そこで素朴な疑問は,他国ではどのようにしているのか,です.二つ紹介しましょう.まずわが国です.日本では,この辺を上手くやっている感じがします.中学校では f(x) = ax + b を「一次関数」と呼び,この「一次」は変数の指数を指しています.つまり,関数が線形であるかどうかには触れていません.英語であれば,function of first degree とでも訳せるのでしょうか.一方,「一次変換」は「一次」を使っていますが,変換自体は線形です.つまり,この「一次」の語は,linear とも解釈できるし(普通はこの意味だと思います),f(X) = AX で X の指数が一次だからとも解釈できます.そして,大学では主に「線形」の言葉が用いられると思います.したがって,線形 (linear) の言葉は,本来の意味でしか用いられないと言えます.

次に,数学の国フランス.フランスの学校数学では,fonction lineaire (線形関数)というと f(x) = ax のことを指します.一方,f(x) = ax + b は,fonction affine (アフィン関数)と呼ばれます.前者は写像として線形であり,lineaire (英語で linear) の意味が中等教育の数学と大学の数学と一貫しています.この国も,数学において矛盾が生じないようになっていることがわかります.

このように二つの国だけを見ると,アメリカの場合が特殊なように見えます(実際はどうなのでしょう?).たいした問題ではないのかもしれませんが,少し混乱を招きそうな気もします.また,今回取り上げた点を除いても,アメリカの教科書の「線形関数 (linear function)」に関する章は,直線の方程式とごっちゃ混ぜになっていたりして,生徒が関数を理解するのは難しそうに感じました.

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